田中
中学生くらいの少年が、レジの前をいったりきたりしている。
こいつなんなんだ・・・・・・
そう思った次の瞬間、その少年はおでん調理器から、ちくわを二本手づかみで
とり、逃走した。鈴木はすかさずレジにおいてあった、防犯用のペイントボールを
手に取り投げた。
「あぁ!!今投げたやつは、タイガースの島谷選手のサインボールだぞっ!」
ボールは指先から離れたばかりだ。
「んなわけあるか」
ボールが3回転目をしたばかりだ。
「じゃあ見てみろよ」
「・・・確かに野球ボールみたいだ・・・」
「店長がペイントボールは使う機会がないから、と言って、変わりに荻谷選手のサインボールでも飾って置いておいたのさ。その話はオレしか知らないから無理もないか」
ボールは徐々に加速しつつある。
「だとしても、オレが投げたボールが少年にあたるだけで、無くなるわけじゃあるまい」
「デッドボールだぞ!!」
ボールは少年の背中の前まできている。
「だからなんなんだ」
「なにもわかっちゃいない。あれは甲子園球場でキャッチした貴重なホームランボールなんだ!!須賀選手が放った、100号ホームランなんだ!」
「サインもらったの?」
「実は、試合中にもらったのだ」
「どうやって?」
ボールは少年の背中の直前まできている。
「打って、ボールが空にアーチを描いている間に客席まで走って、急降下しつつある、つまりまだ空中にあるとき、ペンで直接そのボールに書いたのさ」
「無理だろ。時間を止めたのかよ?」
ボールが少年の背中にあたった。
アルバイトの面接に来ていた鈴木は、店長の着ているローソンの制服ばかりに目がいき、まともに会話すら成立しなかった。まともに顔を見てしゃべると笑ってしまいそうだったからだ。
コンビニの外に出ると、緊張感が抜けて、その脱力感をタバコの煙にのせた。
鈴木は腕時計を見ると、この間、ものの5分もたっていなかったことに驚いた。
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俺が星新一もショートショートも読んだことないのがばれるかな?